アンモナイトの修復痕
多くの軟体動物は殻を持っており,化石として良く保存されている.海岸などを歩いていると,二枚貝や巻き貝のきれいな殻を拾える.繊細な棘を生やした巻き貝,吸い込まれそうな程美しいオウムガイの螺旋,殻に刻まれた規則的な二枚貝の装飾.このような殻を見ると生命の神秘に包まれる.
ところで,そんな殻をよくよく見ると補修した痕跡の様なものを見ることができる.何かに食われそうになって逃げ出したのであろうか?波によって,岩に打ち付けられたのだろうか?痛々しい傷跡が過酷な人生を語っている.
今回はそんな傷をものともせずに修復しているアンモナイトを紹介しよう.
Metaplacenticeras subtilistriatum (Jimbo)というアンモナイト
今回の題材になるアンモナイト. Metaplacenticeras subtilistriatum (Jimbo)というアンモナイトだ. 北海道で採集したものだ.直径は約2cm.小振りなアンモナイトである.植物片などど一緒にノジュールに密集して入っていた.
一見何の変哲もないアンモナイトに見える.しかしである.反対側をみてみよう.
左の方に歪みが見える
あららら.このアンモナイトの左の縁辺部がおかしくないかい?
おかしな部分のやや拡大
このおかしい部分をよく見てみる.なにやら溶けたような,傷跡のような盛り上がりがある.
おかしな部分の拡大
変な部分を実体顕微鏡を使って拡大してみた.うーーん.明らかに変だ.
さらに拡大した変な部分
もっっっと拡大してみよう.これが前半の部分.突然ぽこっと盛り上がっているように見える.
恐らく,このぽこっの始まりの寸前に何かがあって殻が壊れたか,殻を作っている外套膜が傷ついたのであろう.
いったい何で傷ついたのだろうか?想像がふくらむ.
変な部分の後半部分の拡大写真
これは後半.突然ぽこっとしたところが終わって,普通の殻を作っているように見える.このときに殻の修復,もしくは,外套膜の傷が治ったのであろう.
アンモナイトの縦写真.相当ゆがんでいることがわかる.
アンモナイトを縦にしてみた.あららら.これまたえらく曲がっている.ちなみに,これは化石化の過程で圧密などによって曲がったものではない.
さてさて,いかがであったろうか.殻が破壊されたかどうかは分らなかったが,外套膜は傷ついたのであろう.さぞかし大変な人生であったであろう.
このように,殻にはその個体が生活していたときの多くの情報が隠されている.我々古生物を研究しているものは,絶えずそんな隠された情報を引き出そうとしている.