第12回 海へ潜る
授業概要
今日の授業のキーワードは,海洋地殻,海溝,沈み込み,潜水艇,海洋調査です.
参考となる本とウェブサイト
著:長沼毅,出版社:NHK出版
著:藤岡換太郎,出版社:NHK出版,出版年:1997年
配付資料
概要
「地球は青い」.何しろ,海が地球表層の70%(面積)を占めているのだから当たり前だ.では,その海の平均水深は何mだろうか?そもそも海の中はどうなっているのだろうか?
海の中を調べることは難しい.おそらく宇宙を調べるよりも難しいと私は思っている.地球の表面は,宇宙からでも光学レンズやレーザー,電磁波などを利用して調べることができる.自宅の窓から遠い富士山を観察することもできる.ところが,海ではそうはいかない.光も電波もほとんど使えず,しかも圧力が高い.そういう意味では,我々は宇宙よりも地球の海を調べることの方がよっぽど大変なのだ.
それはさておき,今回の授業では「しんかい6500」という潜水艇が撮影した映像を観た.皆さんに記録を取ってもらった映像は,日本海溝の海溝軸を挟んで日本よりの,つまり,陸側斜面に「しんかい6500」が潜ったときの映像だ.海底が平坦ではなく,むしろ,ラフな海底であり,ゴツゴツしたむき出しの岩石や地層,それに地崩れしたような崩壊堆積物(レキなどが転がっているような箇所)がほとんどであったろう.
さらには,絶壁と言えるほどの急斜面を観察した.また,映像の最後の方では,シロウリガイという二枚貝がコロニーをつくっているのを観ただろう.シロウリガイは硫化水素をエネルギー源とする二枚貝である.硫化水素は,海水中の硫酸が,海底下の還元環境で還元されてつくられる.つまり,シロウリガイが生息している場所は,そのような地下にあった水が海底にわき上がってきている湧き水地帯である.では,湧き水はどうしてそこにあるのか?多くの場合,断層など,地下と海底をつなぐ経路があると考えられている.さらには,海洋プレートが海溝で沈み込むときに,陸側を圧縮する.その圧縮によって水が絞り出されてくる.つまり,シロウリガイの分布を調べることによって,断層の位置や方向などを推定することができる.
一方,授業の最後の方にダイジェスト的に見せた日本海溝の海側では,比較的平坦な地形が広がっていただろう.ただしここでもセンセーショナルな光景を見たはずだ.海底に走る割れ目である.海洋プレートが沈み込むときに,プレートがたわむが,このたわみによって,海底に亀裂が形成されているのである.
このように,たいして離れているわけではないのに,海溝軸を挟んで地形や地質状況が大きく異なっている.
これは前回の授業で伝えたことだが,この海洋プレートの沈み込むにともなって,地震も起きるし,火山活動も起きる.また,圧縮によって土地が隆起もする.日本海溝ではほとんど起きていないが,例えば四国沖の南海トラフ(トラフとは,海底地形用語の一つで,海溝ほど唐突に深くなっていないが,地形的に凹んでいる部分をいう.船状海盆ともいう)では,陸上で削剥され河川によって海に運ばれた堆積物が海溝域に堆積し,それがプレート運動によって圧縮を受け,陸に付加し,そして隆起している.一部は海上に露出して陸となっている.実は四国の南側半分はそのようにして出来ているのだ.
プレートの沈み込みは地震や火山噴火などの災害をもたらす一方で,そもそも我々が生活するための陸地をつくったり,火山に伴う温泉をもたらしてもいる.
授業への要望,聞きたい話,質問
なかなか観られない映像を見ることができて新しい発見があって良かったです.
できればハイビジョン映像をお見せしたかったのですが,手元になかったので通常のVHSをMPEGにしたものをお見せしました.ハイビジョンだともっといろんなものが見れて楽しいですよ.
バクテリアを敷き詰められた海底は衝撃的でした.
ですよね.あのバクテリアマットは奥尻沖地震から数年間しかなかったようで,現在ではあのバクテリアマットはなくなっているようです.
深海での作業内容がわかりやすくて良かった
それは良かったです.
ビデオを観ることも大切だと思います.
そういってくれると見せたかいがありました.30分ほどですが,ほぼ無編集の深海映像をみせるとつまらなないかなと思いましたが,実際の深海調査の方法などを皆さんに知って欲しくてて実施しました.
見学はテスト前なのでもう少し早い時期が良かったです.
そうですね.私の都合がうまくつかずにに博物館見学が1月になってしまいました.すみません.
貴重な映像が観れて良かったです.途中で出てきたコロニーって?個人的にですが,途中現れた生物が何なのか知れたらいいなと思いました.
コロニーとは,ある生物が集まって生息していることを指しています.人間でいう集落ですかね.途中で現れた生物のほとんどはイソギンチャクやヒトデなどです.深海にはヨコエビなどもいます.
今回の授業は都市基盤の研究発表があったたね30分弱しかでれませんでした.
それは残念.
何をメモすればいいのかわかりにくく,難しかった.
そうですよね.とにかく見えた物をなんでもメモして欲しかったのですが,わかりにくかったですかね.もう少しビデオの解像度が良ければ良かったのですが.
生物のことについてはさっぱりですが,5000m以上の深海でなぜヒトデやイソギンチャクなどが生きていくことができるのですか?
それは圧力が高いのになぜ生物がいるのか,ということですかね?体の中に肺などの空気などを溜めておく器官のある生物は深海の高圧力下ではつぶれてしまい生息することが困難ですが,例えばイソギンチャクの様に体の中にも外の水(海水)が入ってくる生物では,中と外で同じ圧力になっていますので,体つぶれたりしないで普通に生息できます.ただ,深海ではエサも少ないので,浅海に比較すると個体数は減少していく傾向があります.
プリントと合わせて使えば実際に中で記録をとるような体験ができるのでビデオには意義があると思います.
そうですね.もう少し深海の解説プリントがあったほうが良かったです.
実際の海の調査作業が観ることができてよかった.
良かったです.
海は深いなと改めて思いました.
そう,海は深いのです.