スマイア(Zumaia:スペイン北部)の白亜紀/第三紀(K/T)境界
すばらしきかなスペイン
スペインの北西部のバスク地方には,白亜紀から古第三紀の連続性のきわめて良い地層が分布している.大西洋カンタブリア海に面した海岸は好露頭が続く.この地域は,連続性が良く,観察が容易な露頭があることによって,ユネスコのジオパークにも選定されている(地層だけではなく,水鳥などが生息する湿地があることも選定理由の一つ).
先日,家族旅行でこの地を訪れ,地層観察もしてきたので報告したい.
なお,世界ジオパークに選定されている関係で,この地域で露頭から化石を採集するには許可が必要とのことで,一般の化石採集は難しい.
おすすめルート
最初に,スマイア(Zumaia)での地層観察ポイントを地図に示す.
Itzurun海岸は夏は海水浴客で賑わうが,古第三紀のセランディアン階とタネティアン階の基底を規定する模式露頭(ストラトタイプ)がある.また,Hotel Zelai裏の階段を登って聖テルモ教会を通り過ぎて岬に到達すれば白亜紀と古第三紀の境界(K/T境界;最近ではK/Pというのかな)を目にすることができる.
この観察地図を利用するにあたって一点注意して欲しいことがある.私が行ったときは潮が高く,K/T境界を間近で観察できる海を歩くルートには行っておらず,このルートは想像で書いているにすぎないことだ.このルートを歩く場合は,現地の潮汐などを考慮して慎重に行って欲しい.特に帰りに潮が高くなると帰れなくなるどころか,海から逃げる場所もなさそうなので,非常に危険である.
スマイアのK/T境界への行き方
Zumaiaについたら,Itzurun beachを目指します.
Itzum beach近くには写真のホテル ツェライがあります.このホテルの敷地内をこっそり通って(建物に入る必要はありません),裏手にある階段を登ります.
ホテル裏の階段を登り切ると何軒かの住宅がある.やや遠くに聖テルモ教会が見えるので教会を目指して歩く.
聖テルモ教会です.緑の芝に囲まれた絶壁に立つ教会.普通の(!?)観光スポットとしてもおすすめです.もし,付近で道に迷った場合は,聖テルモ教会の場所を聞くととりあえずここまでたどり着けるはずです.
聖テルモ教会の脇の小道を通っていきます.
聖テルモ教会を抜けるとタービダイトなどからなるフリッシュ互層が顔を出します.断崖絶壁のすぐ脇なので注意して下さい.この地点は古第三紀暁新世(Paleocene)の地層です(古第三系暁新統).
聖テルモ教会が立つ崖です.断崖絶壁です.この崖は古第三紀の地層で,右手の方はスランプを起こしています.写真中央の一段奥まった崖に古第三紀暁新世のセランディアン階とタネティアン階を規定するストラトタイプ(世界でこの時代はここから!というのを決める世界標準の地層)があります.
私が写真を撮っているこの位置も断崖絶壁ですので,強風などに煽られて落ちないようにご注意ください.落ちたら死にます.
崖の上の道をさらに岬に向けて進んでいきます.途中で突然藪に包まれますが,気にせず突破してください.
藪から出て少しのところです.岬の突端に近づいてきました.ここらで丘を下りはじめます.
地層を横切るように丘を降りていきます.
丘を降りていくと階段のある入り江につきます.おお,K/T境界を見るためにこんな階段が用意されているのか.と一瞬感心しましたが,実はこの入り江にはK/T境界はありません.
階段を降りると相変わらずの互層が広がっている.ちなみにこの入り江にはK/T境界はなく,この入り江のひとつ北側の入り江にK/T境界がある.この入り江に見える地層は白亜紀.
ちなみに,このときはほぼ満潮.時間がなくて干潮のときに来れなかったのだ.それで,当初この入り江にK/T境界があると思って一生懸命沖に向かって歩いてこの露頭の全体写真を撮ろうとした.そして・・・・大波が私を飲み込みました.カメラごと!
幸いにしてカメラは無事.しかし,ポケットに入っていた携帯電話に浸水し故障してしまいました.悲嘆にくれつつ,持っていた論文(これもびしょびしょ)を確認すると,どうやらここはK/T境界ではなさそうなことが判明.非常にショックでした.
階段のある入り江はどうやらK/T境界ではない.これが確信に近づいてきた.ではK/T境界はどこか.もしかして,あの海にバシャバシャと洗われているあの岬の向こうだろうか!?もってきた論文に書いてある地質図などを見るとどうやらそうらしい.なんということでしょうか.今回のスペイン旅行は家族旅行なので,地質にあまり時間を取れない.今しか時間がないのに満潮!!一瞬,波にも飲まれて気力がないでいるだけに,途方に暮れましたが,崖の上からチャレンジしてみることにします.
階段を登り,崖伝いに北西方向に足を進めます.先ほどの小道がなくなり,獣道みたいになった道?を歩きます.
階段のところから数十m北西に歩みを進めると,階段のある入り江のひとつ北側の入り江を臨めます.ここです.ここがK/T境界です.論文などに載っている写真と照らし合わせると,地層の特徴が合致します.波に飲まれながらもようやくK/T境界にたどり着きました.
ずぶ濡れだったので気力があまりなかったのですが写真をパシャリ.ところが,あとでびっくり.いつもは絞り優先で撮影していたカメラ設定がいつの間にか(たぶん波をかぶったときにあわてていたときに),マニュアル撮影モードになっていました.見てみると,K/T境界の写真だけ真っ黒.シャッタースピードが速すぎたのです.Photoshopを使って一生懸命ノイズがあまり出ないようにありとあらゆる画質調整を試み,なんとか見えるレベルの写真になりました.それにしてもなんと言う失敗.人間,例え気持ちが萎えてもここ一番のときはガツンと気合いを入れなくてはなりません.せっかくK/Tに行ったのに美しい!と言える写真が撮れなかったのは非常に残念.いい教訓になりました.
関連リンク
スマイアを含むバスク地方のジオパークの公式ページ(スペイン語およびバスク語)