ゾルンホーフェン(Solnhofen)で化石採集 −古生物の部屋

ゾルンホーフェン(Solnhofen)で化石採集

世界有数の化石産地 ゾルンホーフェン

南ドイツには世界有数の化石産地がいくつかある.中でもラーガシュテッテン(Lagerstatten; 日本語では化石鉱床もしくは化石鉱脈と訳されることが多い)と呼ばれる,きわめて保存の良い化石が産出する場所が3つある.ホルツマーデン(三畳紀後期の魚竜類やクビナガリュウ類を産出する黒い頁岩層),メッセル(始新世のほ乳類化石で有名),そしてゾルンホーフェンである.2011年5月にゾルンホーフェンに行ってきたのでご紹介したい.

ゾルンホーフェンにはジュラ紀後期の石灰岩が分布しており,その石灰岩から始祖鳥化石が発見されて一躍有名になった.ダーウィンが「種の起源」を出版した2年後に発見されたため,鳥類とは虫類とのミッシングリンクをつなぐ化石として注目を集めた.ドイツではダーウィンの進化論に反対していたため,この始祖鳥化石を偽物と見なした.このため,ドイツ国内ではこの始祖鳥化石標本を獲得する気運がおこらず,イギリスの自然史博物館に低価格で買い取られてしまった.後に見つかった標本はドイツの威信をかけて(ドイツの電気会社大手ジーメンス(富士通の前身?)の当時の会長が奮発したらしい),ドイツで買い取ったとのこと.これはベルリン標本と呼ばれ,ベルリンの自然史博物館に収蔵されている.

ちなみに,2011年は始祖鳥化石発見から150年を経た記念年である.ドイツでは始祖鳥をあしらった記念10ユーロ銀貨が発売される.

さて,よもやま話が多くなってしまったがいよいよ本題である.

ゾルンホーフェンの場所,岩石,時代

リトグラフ印刷に使われるゾルンホーフェン石版石灰岩

リトグラフ印刷に使われるゾルンホーフェン石版石灰岩.ゾルンホーフェン博物館で撮影.

ゾルンホーフェンとは,ミュンヘンの北約100kmに位置するアルトミュールタル(Altmuhltal)国立公園内にある町の名前である.ここにはジュラ紀後期の石灰岩が分布している.この石灰岩は2種類ある.ひとつは,板状(石版状)に一枚一枚はがせる石版石灰岩(Plattenkalk)であり,もう一つはブロック状というか一枚一枚はがせない礁性石灰岩である.始祖鳥化石は石版石灰岩から産出した.石版石灰岩は,始祖鳥化石発見前から建築材やリトグラフ印刷のための石版として採集されていて,その採集の途中で始祖鳥化石が見つかった.始祖鳥の学名であるArchaeopteryx lithographicaの種小名はリトグラフ印刷に由来している.ちなみに,この石版石灰岩は,建築材として現在も採掘されていて,日本でも石材屋などで普通に入手できる.

ジュラ紀後期当時の礁とラグーンの分布

ジュラ紀後期当時の礁とラグーンの分布.石版石灰岩はラグーンに静々とたまった石灰質軟泥からなる.ゾルンホーフェン博物館で撮影.拡大写真はこちら

さて,この石版石灰岩はゾルンホーフェンだけでなく,周辺の町にも分布している.当時の礁で形成された岩石が礁性石灰岩で,その礁と礁の間のラグーンに,細粒の炭酸塩粒子(石灰質軟泥)が静々と堆積して形成されたのが石版石灰岩である.このラグーンの底は酸素が少なかったらしく,底生生物がほとんどいなかった.底生生物が少なかったことにより堆積物の擾乱(じょうらん)が少なく,きれいな化石が保存されるに至ったとのことである.また,生物擾乱が少なかったからこそ,一枚一枚はがせるような葉理の発達した石版石灰岩になったのである.

始祖鳥化石 Archaeopteryx lithographica Eichstaett標本

1951年に発見された始祖鳥.Archaeopteryx lithographica H. v. Mayer 1861. アイヒシュタット(英綴 Eichstaett)標本.アイヒシュタットのジュラ博物館(ドイツ語ではユラミュージアム; Jura Museum)に収蔵されている.オリジナル標本.拡大写真はこちら.

始祖鳥化石は現在(2011年5月)までに11標本(1標本は1本の羽だが・・・)発見されている.まずは1860年にゾルンホーフェンで羽毛が発見され,次いで1861年にほぼ完全個体が発見された.それから16年後の1877年にアイヒシュタット(Eichstaett)近郊のブルーメンベルク(Blumenberg)で別のほぼ完全個体が発見された(ベルリン標本).これまでに発見された始祖鳥化石の産地をgoogle mapにまとめてみた.


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アイヒシュタット近郊ブルーメンベルク化石採集場

これらの産地のいくつかでは実際に体験発掘が可能である.始祖鳥が実際に発見された場所で化石を採集できるとは,なんともすばらしい.日本だとそのような場所は天然記念物となって採集できなくなってしまうだろう.大半が私有地と言うこともあるが,ドイツの懐の深さを感じる.

いくつもある化石採集場所のうち,トイレなども備わっていて,それなりに化石も採集できる場所として,アイヒシュタット近郊のブルーメンベルクの化石採集場所をおすすめしたい.

アイヒシュタットの観光案内所で販売されている化石

アイヒシュタットの観光案内所で販売されている化石

場所は上記のgoogle map上の右の方にある赤ピンのところ(Blumenberg quarry と説明がでる赤ピン).アイヒシュタットの町の観光案内所(インフォメーション)で詳しい場所を聞ける.アイヒシュタットから車で約10分ほどだ.

ちなみに,この観光案内所やアイヒシュタットにあるジュラ博物館では化石も購入できる.

アイヒシュタット近郊の石版石灰岩の採石場

アイヒシュタット近郊の石版石灰岩の採石場

アイヒシュタットの町を抜けて小高い丘を登ると,突然,大きな採石場がいくつも出てくる.まさに,ここで石版石灰岩を採集しているのだ.嫌が応でも気持ちが盛り上がってくる.

ブルーメンベルクの化石採集場にはたくさんの人

たくさんの人で賑わっているブルーメンベルクの化石採集場

ブルーメンベルクの化石採集場に着くと,すでにたくさんの人が化石を採集している!!これは負けてはいけないと,まずは受付へ.受付で一人3ユーロくらい(化石採集に気持ちが急いていて覚えていない・・・・)を払って入場する.ハンマーやタガネは各1ユーロで借りることができる.私はもちろんマイハンマー.

受付そばでの化石採集方法の説明

受付そばでおばちゃんが化石採集のコツを伝授

受付そばでは化石採集初心者を対象に,化石の発見方法や石の割方を伝授される.ドイツ語だったので私はパス.

Blumenberg採石場での化石採集風景

採石場で化石を採集する老夫婦.

いよいよすり鉢状になった採石場を降りていく.子どもから老人まで,多くの人が石を割り,化石を探している.

石版をはがすように割る

タガネを層理に当てて石版を一枚一枚剥ぐように割っていく.

この老人はなかなか年季が入っている.たぶん毎週来て始祖鳥化石を探しているのだ.ゾルンホーフェンの岩石は,一枚一枚の石版が剥がれるように割れる.とはいえ,闇雲に叩いてはだめだ.層理に沿ってタガネを当てて,あまり強く叩き過ぎないようにハンマーで叩く.うまくいくとパカンと気持ちよく割れる.

パカンと割れた石版石灰岩

パカンと割れた石版石灰岩

この割れた面を良く観察する.たまに化石が見つかる.この割れた面は当時の海底面だ.生物が死んで海底に沈み,周りを堆積物が覆い,化石になる.その化石を探すのだ.

ゾルンホーフェンの石版石灰岩を手に筆者近影

石版石灰岩を手に記念撮影

なかなか化石が見つからないなーと思いながらも,終わってみればかなりの量の化石を採集した.ほとんどがサッココーマという浮遊性のウミユリや魚の糞化石.小さなアンモナイトは数個体であった.始祖鳥は・・・・残念ながら発見に至らなかった.

化石の写真を撮影する前に標本を日本に持って帰ってしまったので化石の写真がない.続編としてウェブにアップしたいが,2011年冬頃になりそうだ.

関連情報

アイヒシュタット市の化石採集場についての案内ページ(ドイツ語)

上記サイトからダウンロードできる案内パンフレット(PDF)への直リンク