化石のでき方 −古生物の部屋

化石のでき方

はじめに

化石を研究するときに,いったいこの化石はどうして化石になったのだろうか?という疑問を抱く.生きていた生物すべてが化石に残るわけではない.恐竜や貝の様な骨や殻を持っているものはすべて残るかというとそうでもない.もちろん硬組織を持っているほうが残りやすいことは確かだと思うが,それだけではなさそうだ.

このような,化石化のプロセスを研究する分野をタフォノミー(Taphonomy)と呼んでいる.

化石形成までのプロセスと関与する要因

生物が死んでから化石化するまで,生きていたときの状態を入れて大きく4つの段階に分けられる.すなわち,1.生物の誕生〜死,2.腐敗作用,3.運搬作用,4.埋没化石化作用の4区分である.この1〜4のプロセスは,1は最初で無くてはならないが,2〜4が起こる順番は一定ではない.しかし,一般的には,2→3→4という順番になる.

1.生物の誕生〜死

Raup and Stanley (1985)による海洋生物の生息場所

化石になるには,当然その生物が死ななくてはならない.また,生きていた場所や環境も化石化の過程において非常に大きな役割をもつ.

生物は,例えば右の図のように海の中をのぞいたときに,泥の中に潜っている者や泥や砂,岩の上にすんでいる者,そして,水中に浮かんでいる者など様々な生活スタイルをとっている.

これらの生物が死んだとき,そもそも潜って生活しているものは,最初から埋没しており,化石として保存されやすいであろう.

また,右の図におけるクラゲ(C)は硬組織が無いため,化石としては残りにくく,IやKなどの貝は殻という硬組織をもっており,化石として残りやすい.このような生物そのものが持っている先天的なバイアスも化石を取り扱う場合には十分に気をつけなくてはならない.

2.腐敗作用

バクテリアなどによる軟体部の分解

これは,次の3と前後して起こる場合があるが,生物が死ぬと,まず軟体部の腐敗が起こる.腐食者によって食べられたり,バクテリアによって分解される.もしくは,捕食によって死んだ場合は,全部または一部の軟体部が食われて消失する.また,殻などの硬組織も捕食者によって破壊される可能性がある.このように非常に早い段階で,軟体部が選択的に消失してしまう.逆に,カンブリア紀のバージェズ頁岩の様に軟体部の化石が残るためには,バクテリアなどによって分解されない環境でなくてはならないわけである.

また,腐敗という訳ではないが,ゴカイや微生物が殻などに穴をあけたりして,化石を破壊したいるする.このようなことをバイオエロージョン(BIOEROSION)と呼ぶ.

3.運搬作用

遺骸は水流などによって運搬される

水流や風による運搬作用によって遺骸が運ばれることを言う.この作用は物理的な力によって生じており,化石密集層を形成したりする.また,ある一カ所に掃き溜まったりする.この過程で硬組織が破壊されて破片化する場合がある.当初は埋まっていたのに,強い水流によって洗い出されてしまうときもある.

このような運搬作用の結果に再堆積した化石は異地性化石群集と呼び,生物が生息していた当時のまま埋没したものを現地性化石群集と呼んでいる.

また,オウムガイの殻が生息していないはずの日本沿岸にまで流れ着くことがあるが,これは,殻の内部に溜まったガスによって浮いてしまい,潮流に乗って日本にやってきてしまったわけである.これも運搬作用の一つである.

4.埋没化石化作用

埋没後に圧密変形などを被る

遺骸が埋没後,もしくは埋没する前に硬組織が溶解したり,また,鉱物の置換,圧密変形,高温高圧による変質変形作用を受けることがほとんどである.

圧密変形

調査で沢を歩いていると,殻が地層中でぺちゃんこになっているものを良く見つける.これらは,埋没後にその後に溜まった堆積物の重みによってつぶれてしまったものだ.北海道のアンモナイトの場合は,埋没後圧密を受ける前にノジュール(炭酸塩の晶出によって団塊が形成されたもの)になると,その中の遺骸はそれ以降ほとんど圧密を受けることが無くなり,つぶれずにきちんと残る.

殻の溶解

また,殻が解けて化石になったものは,印象化石と呼ばれている.海洋の深いところ(だいたい3000m以深)ではカルシウムの濃度が低く,貝殻などは解けてしまって残らない.また,陸上にあがってきたあとに天水(雨水ね)が浸透して溶かしてしまう場合もある.

鉱物の置換

生物の硬組織は,実にいろんな鉱物でできている.主なものではカルサイト(方解石)やアラゴナイト(あられ石),リン酸カルシウムなどである.このなかで,特にアラゴナイトは通常の温度圧力条件の下では不安定な鉱物で,カルサイトに変わりやすい.白亜紀のアンモナイトなどはアラゴナイトを持っているが,一部の地域を除いては,ほとんどがカルサイトになっている.

おわりに

このような化石化のプロセスを経て初めて化石になるのである.逆に,化石を研究する場合は,その化石がいったいどういうプロセスを経て現在に至ったのかを推定しなければ,生息場所や時代,生態などを議論することはできない訳である.

また,ここで書いたことはほんの一例であり,化石化作用はほんとうに複雑なプロセスを経ている.そのうち,いろいろなシチュエーションをケーススタディとして紹介したい.