化石とは? −古生物の部屋

化石とは?

化石の定義

化石とは何であろうか.化石の英語 Fossil(フォッシル)とは,ラテン語で『掘り出されたもの』である.しかし,掘り出されたものが全て化石という訳ではない.化石とは,過去に生きていた生物の遺骸,もしくは痕跡である

しかしながら,実は化石の定義は明確になされたわけではない.例えば,どれくらい過去のものを化石と呼ぶのか.昨日の夕食に出てきたみそ汁のなかのアサリは化石か?  この問いに関しては,おそらく,誰もが化石ではないと言うだろう.では,1万年前の縄文人が捨てたアサリはどうであろうか.人為的に集められた貝塚は化石ではないが,自然状態で埋積したのであれば化石であるという人もいるであろう.

ここら辺の定義はあまりなされておらず,人によって異なるというのが本当のところである.

ここで,私なりに定義をしてみると,化石とは,先史時代以前の生物の遺骸もしくは痕跡で,自然状態で地層中に埋没したものとなる.いかがであろうか.

化石の種類

化石にも様々な種類がある.殻の化石,骨の化石,糞の化石,足跡の化石・・・・.挙げればきりがない.これらを大別すると,体化石,生痕化石,化学(分子)化石の3種類に区分できる.

それぞれの例を挙げてみよう.

体化石

体化石とは,生物の体全体,もしくは一部のの化石のことである.生物の体すべてが化石に残ることは非常に少ない.我々の体を考えてみると,肉の部分はまず残らないであろう.残るのは骨や歯だけである.下の画像をいくつか見てもらおう.最初の2枚はどちらも軟体動物の殻である.一つは,白亜紀のアンモナイト.もう一つは第三紀の二枚貝である.この二つは,本来は軟体部(肉)を持っていたと考えられるが,腐ったか何かして,化石としては保存されなかった.しかし,幸いなことに彼らの殻が化石として保存された.よって,この二つは軟体動物の体の一部(殻)が保存された化石,すなわち体化石であると言える.

また,ごくまれに軟体部も含めて発見されることがある.有名なのは,琥珀(樹液の化石)の中に含まれる蚊や昆虫の化石や冷凍マンモスなどである.ドイツのホルツマーデンでは,ジュラ紀の地層から軟体部の印象化石のようなものが見つかっている.(ホルツマーデンの化石については,Skolithosさんのページの恐竜が生きた時代の痕跡に詳しく書かれている.)

アンモナイトの画像

標本提供:吉岡由紀さん

これは,白亜紀の地層から産出したTexanitesというアンモナイトである.これは,殻しか残っていない.本当はこの殻の中にオウムガイの様な,タコみたいな足がニョキニョキあったに違いない.

二枚貝の画像

北海道の第三系から産出したConchoceleという二枚貝の化石.これも殻しか保存されていない.

右の写真は琥珀(正確には新しすぎてまだ琥珀になっていない)であるが,その中に昆虫が取り込まれている.下は拡大写真. 上の琥珀の拡大写真.昆虫が入っているのがわかる.

琥珀の中の昆虫化石の拡大写真.

生痕化石

生痕化石とは,生物が生活していた痕跡のことをいいます.巣穴とか,足跡とか,糞とかもそうです.

生痕化石のすばらしいところは,その生痕を誰が(どのような生物が)作ったのかは,はっきり分らないが,その場で作られたというところです.つまり,貝殻(後には体化石になる)などは,貝が死んだあと,波などで流されて,彼らが生息していたところとは別の場所で化石になるかも知れませんが,生痕化石はまさにその生物が生息していたところにできるのです!!

生痕化石には,ichnospeciesという種の定義があり,これは,生痕化石の形態によって分けられている.

現実問題として,どのような生物が作った生痕化石なのかはほとんど分りません.しかし,その生物がどのように生息(行動)していたのかなどは推定できます.

中里村の恐竜足跡化石.

右の写真は群馬県中里村にある白亜紀の地層である.波によって形成された凸凹があり,当時の砂浜の表面を見ていることがわかる.ここになにやらいくつかの凹みがるのがわかるだろうか.あまりはっきりしないが,どうも足跡らしい.それも恐竜の足跡である.足跡の化石は,近年富山県や石川県などでも豊富に見つかっている.

室戸海岸の生痕化石.Nereites isp.

右の写真はNereitesという種類の生痕.ムカデみたいに足をいっぱい持つ生物が歩いた痕跡のようだ.実際はキララガイなどの二枚貝が地中を動きまわった痕跡らしい.

室戸海岸の生痕化石2.Paleodiction isp.

Paleodictionという生痕化石.まるで,蜂の巣のような形をしている.これは,どうもバクテリアのコロニーのあとの様である.うーーーむ,生物は,ときに驚くべく正確さで形を作るものである

化学(分子)化石

化学化石とは,生物起源の有機物など(炭化水素やDNAなど)が化石となっていることを言います.ジュラシックパークでおなじみに琥珀に包まれた蚊から採集した恐竜の血液などは化学化石と言えるでしょう.

また,何億年も前の地層から有機物が発見されます.ある生物群に特徴的な有機物はバイオマーカーと呼ばれており,あるバイオマーカーが地層中から発見されるとどのような生物がいたかを推定できます.

私は,貝の化石もいじっているのですが,現在メインにやっている研究は,この化学化石(特にバイオマーカー)の研究です.

化石に残る確率

ところで,過去に生きていた生物が,化石として残る確率はどれくらいのものでしょう?

現在,地球上で生きている生物は,全部で150万種と言われており,化石として,これまでに報告されている数は,25万種です.そもそも現在150万種生きているのだとすれば,これまでの地球46億年の歴史の中にいた生物は150万種ではないはずです.推定で450万種いたと言われています.つまり,このうちの5%しか化石記録として残っていないのです!!!

いかに化石記録が貧弱であるかわかってもらえたかと思います.しかし,現在生きている種のほとんどは昆虫で,実はこれが化石としては残りにくいのです.

古生物学者は,この貧弱な化石記録からいかにもっともらしい過去の世界を復元するかを目指しています.